Officeライセンス移行:認証方式と管理体制の変化

はじめに

前回は、法人向けOfficeライセンスの主要な選択肢として、Microsoft 365(サブスクリプション)、Office LTSC、そしてOffice Home & Business(永続ライセンス)の3つをご紹介しました。今回は、これらのライセンスモデルを導入する上で非常に重要となる「認証方式の違い」と、それに伴う「管理体制の変化」について詳しく解説します。

認証方式の違い

Officeのライセンスモデルによって、利用者がOfficeアプリケーションを使うための認証方法が大きく異なります。

1. Microsoft 365 (サブスクリプションモデル) の認証

Microsoft 365の認証は、ユーザーアカウントベースです。

  • Azure Active Directory (Azure AD) と連携: Microsoft 365のライセンスは、各ユーザーのAzure ADアカウント(またはMicrosoftアカウント)に紐づけられます。
  • サインインによる認証: Officeアプリケーションを初めて起動する際や定期的に、ユーザーが自身のMicrosoft 365アカウントでサインインすることで、ライセンスが認証されます。
  • デバイスの制限: 通常、1ユーザーが複数台のPC、タブレット、スマートフォンにOfficeをインストールし、サインインして利用できます(具体的な台数は契約プランによる)。
  • 多要素認証 (MFA) の適用: Azure ADの機能と連携し、セキュリティ強化のために多要素認証を必須に設定することが容易です。
  • インターネット接続の必要性: 定期的にライセンス認証のためにインターネット接続が必要です(通常30日に一度など)。

2. Office LTSC (永続ライセンス) の認証

Office LTSCの認証は、主にプロダクトキーベースで行われます。

  • プロダクトキーによる認証: ボリュームライセンスのプロダクトキー(MAKまたはKMS)を直接入力して認証します。Microsoftアカウントへの紐付けは必須ではありません。
  • デバイスへの紐付け: 認証されたライセンスは、基本的にそのPCに紐づけられます。
  • 初回認証後はオフライン利用可: 初回認証が完了すれば、その後はインターネットに接続していなくても継続して利用できます(ただし、セキュリティ更新には接続が必要です)。
  • 再認証時の注意: PCのハードウェア変更時やOSの再インストール時には、再度プロダクトキーの入力と認証が必要になる場合があります。

3. Office Home & Business (永続ライセンス) の認証

Office Home & Businessの認証は、プロダクトキーとMicrosoftアカウントの紐付けが中心です。

  • プロダクトキーとMicrosoftアカウントの紐付け: 購入したプロダクトキーをMicrosoftアカウントに登録(紐付け)することで、ライセンスが有効になります。
  • サインインによる認証: Officeアプリケーションを初めて起動する際や再インストール時に、ライセンスを登録したMicrosoftアカウントでサインインすることで認証されます。
  • デバイスへの紐付けと管理: 認証されたライセンスは、Microsoftアカウントを通じて管理されます。タイでは1ライセンス1台、日本ではパッケージ版の場合1ライセンス2台のPCにインストールして利用できます。
  • 初回認証後はオフライン利用可: 初回認証が完了すれば、その後はインターネットに接続していなくても継続して利用できます(ただし、セキュリティ更新には接続が必要です)。
  • 再認証時の注意: PCのハードウェア変更時やOSの再インストール時には、再度認証が必要です。この際、Microsoftアカウントの管理ページから旧PCのライセンス情報を削除し、新しいPCで再度サインインして認証する手順が求められます。

Microsoftアカウントとは?

Microsoftアカウントは、Microsoftが提供するOutlook.com、OneDrive、Xbox、Windows、Officeなどの各種サービスにサインインするために使用する個人用アカウントです。メールアドレスとパスワードで構成され、これによりユーザーは購入したデジタルコンテンツ、サブスクリプション、個人設定などを一元的に管理できます。Office Home & Businessの永続ライセンスでは、このアカウントにプロダクトキーを登録することで、ライセンスの管理や再インストールが可能になります。

管理体制の変化

認証方式の違いは、IT管理者がOfficeライセンスをどのように管理するかにも大きな影響を与えます。

1. Microsoft 365の管理体制

Microsoft 365では、クラウド上の管理センターで一元的な管理が可能になります。

  • 一元管理: Microsoft 365管理センターから、すべてのユーザーのライセンス割り当て、削除、変更を簡単に行えます。
  • ユーザーベースの管理: ユーザーの入社・退社に伴うライセンスの付与・回収が容易で、余剰ライセンスの発生を防ぎやすくなります。
  • デバイス管理との連携: Microsoft IntuneなどのMDM/MAMソリューションと連携することで、Officeアプリケーションがインストールされたデバイスのセキュリティポリシー適用やデータ保護を強化できます。
  • 常に最新: アプリケーションの更新はMicrosoftによって管理され、常に最新の機能とセキュリティパッチが適用されます。
  • セキュリティポリシーの集中管理: セキュリティやコンプライアンスに関する設定をMicrosoft 365の管理画面から集中して行えます。

2. 永続ライセンスの管理体制

永続ライセンスの場合、各デバイスへの個別管理が基本となります。特にOffice LTSCとHome & Businessでは、管理のアプローチが異なります。

  • プロダクトキーの管理:
    • Office LTSC: プロダクトキー自体の管理が中心となります。ボリュームライセンスキーの記録と、必要に応じたPCへの適用が必要です。
    • Office Home & Business: プロダクトキーに加え、紐付けたMicrosoftアカウントの管理も必須となります。アカウント情報(メールアドレス、パスワード)を紛失するとライセンスの再認証や移管が困難になり、プロダクトキーとアカウントの両方を適切に管理する必要があるため、管理がより煩雑になる傾向があります
  • 個別インストールと認証: 新しいPCを導入するたびに、個別にOfficeのインストールと認証作業が必要です。
  • ライセンス利用状況の把握: どのPCにどのライセンスが適用されているか、手動で記録・管理する必要があり、ライセンスコンプライアンスの維持が複雑になりがちです。
  • PC入れ替え時の作業: PCの入れ替え時には、旧PCからOfficeをアンインストールし、新しいPCに再インストール・再認証する手間が発生します。特にHome & Businessでは、ライセンス移管のルールに注意が必要で、Microsoftアカウントの管理ページからの旧デバイス削除などの手続きが発生します。
  • 更新プログラムの適用: 機能更新はなく、セキュリティ更新プログラムは各自で適用する必要があります(自動更新の設定も可能ですが、管理は各デバイスに依存します)。

まとめ

Microsoft 365への移行は、ライセンス管理をユーザーベースのクラウド環境に集約し、IT管理の手間を大幅に軽減できる可能性があります。特に複数のユーザーやデバイスを管理する企業にとっては、セキュリティ強化と運用の効率化に繋がります。

一方で、永続ライセンスは、一度購入すれば追加費用が発生せず、インターネット接続が限定的な環境や、特定のシステム要件がある場合に有効な選択肢となります。ただし、管理は個別対応となり、計画的なライセンス管理が求められます。

どちらのモデルが自社の運用に適しているかを検討する際は、従業員数、利用デバイス数、IT管理体制、セキュリティ要件、そして予算を総合的に考慮することが重要です。

次回予告

次回は、これらのライセンスモデルへの移行を検討する際の具体的なステップと、Microsoft 365移行で利用できる便利なツールやサービスについて解説します。