法人向けOfficeライセンスの変化と新たな選択肢

はじめに

前回は、Microsoft Office 2016/2019のサポート終了がもたらすリスクについて解説しました。今回は、法人向けのOfficeライセンス体系がどのように変化し、現在どのような選択肢があるのか、そしてそれぞれの特徴について掘り下げていきます。

Openライセンス(ボリュームライセンス)終了の影響

かつて多くの企業で利用されてきた「Openライセンス」(ボリュームライセンス)は、Office 2019の提供終了と同時に、永続ライセンスとしての販売を終了しました(2021年12月31日)。これは、企業がOfficeソフトウェアを複数購入する際の一般的な方法であり、一度購入すれば永続的に利用できる利点がありました。

この終了により、企業はOffice製品を購入する際に、これまでとは異なるライセンスモデルを検討する必要が出てきました。特に影響が大きいのは、以下のような点です。

  • 永続ライセンスの調達方法の変更: 従来のOpenライセンスのような形で、Office Professional Plusなどの永続版をまとめて購入する手段が大きく制限されました。
  • クラウドベースへの移行促進: Microsoftは、サブスクリプション型のクラウドサービス「Microsoft 365」への移行を強く推奨しています。

現在の主な法人向けOfficeライセンス形態

Openライセンス終了後の主な選択肢は、大きく分けて以下の2つです。

1. Microsoft 365 (サブスクリプションモデル)

これは、クラウドベースのサービスであり、月額または年額で利用料金を支払うことで、常に最新版のOfficeアプリケーション(Word, Excel, PowerPointなど)に加え、クラウドストレージ(OneDrive)、オンライン会議ツール(Teams)、メールサービス(Exchange Online)など、様々なサービスを利用できる統合型ソリューションです。

メリット:

  • 常に最新版: 新機能やセキュリティ更新が自動的に提供されるため、常に最新かつ安全な環境を保てます。
  • 柔軟なライセンス管理: ユーザー数に応じてライセンスを増減しやすく、初期投資を抑えられます。
  • 豊富なサービス: Officeアプリだけでなく、様々なクラウドサービスを統合的に利用できます。
  • マルチデバイス対応: 複数のデバイス(PC、タブレット、スマートフォン)で利用可能です。

デメリット:

  • 継続的なコスト: サブスクリプションであるため、利用を続ける限り費用が発生します。
  • インターネット接続の必要性: 一部の機能や認証にはインターネット接続が必要です。

2. Office LTSC (永続ライセンス)

LTSCは「Long Term Servicing Channel」の略で、特定のPCにインストールして永続的に利用できるライセンスです。主に、インターネットに接続できない環境や、機能変更を極力避けたい特定の業務システムなどで利用されます。Office 2021 LTSCなどがこれに該当します。

メリット:

  • 一度購入すれば永続利用: 追加費用なしで長期利用が可能です(ただし、サポート期間は定められています)。
  • 安定した環境: 機能の大きな変更が少なく、安定した運用を重視する環境に適しています。
  • インターネット接続不要: 基本的な機能はオフラインで利用可能です。

デメリット:

  • 初期費用が高い: サブスクリプションと比較して、初期購入費用が高額になる傾向があります。
  • 機能更新なし: 新機能は提供されず、セキュリティ更新プログラムのみが提供されます。
  • 限定的な利用シーン: 一般的なオフィス環境ではMicrosoft 365の方が利便性が高い場合があります。
  • サポート期間の制限: サポート期間が定められており、Office 2021 LTSCのサポートは2026年10月13日に終了予定、Office 2024 LTSCのサポートは2029年10月9日に終了予定です。期限後は自己責任での利用となります。Office 2019のサポート終了に合わせて買い替える場合は約4年でサポート終了を迎えます。

3. Office Home & Business (永続ライセンス)

これは、永続ライセンスの一種で、PCプリインストール版やパッケージ版として購入が可能です。主に中小企業や個人事業主、家庭での利用を想定しており、Word, Excel, PowerPoint, Outlookが含まれます。タイでは1ライセンスにつき1台のPCにインストールできます。(日本ではパッケージ版の場合、通常は同一ユーザーが2台のPC(WindowsまたはMac)にインストールして利用できます。)

メリット:

  • 一度購入すれば永続利用: 追加費用なしで長期利用が可能です。
  • 初期費用のみ: サブスクリプションのような継続的な費用は発生しません。
  • オフライン利用可: インターネット接続がなくても基本的な機能は利用可能です。
  • (日本で購入した場合)2台のデバイスで利用可能: 同一ユーザーであれば、パッケージ版で2台のPCにインストールできるため、ノートPCとデスクトップPCなどで使い分けが可能です。

デメリット:

  • 機能更新なし: 新機能は提供されず、セキュリティ更新プログラムのみが提供されます。
  • クラウドサービスは含まれない: OneDriveやTeamsなどのクラウドサービスは別途契約が必要です。
  • ライセンス管理: 複数台導入する場合、管理が煩雑になる可能性があります(特にプリインストール版の場合)。
  • サポート期間の制限: サポート期間は定められており、Office 2021 Home & Businessのサポートは2026年10月13日に終了予定、Office 2024 Home & Businessのサポートは2029年10月9日に終了予定です。期限後は自己責任での利用となります。Office 2019のサポート終了に合わせて買い替える場合は約4年でサポート終了を迎えます。

購入・契約方法の違い

  • Microsoft 365:
    • Microsoftのパートナー企業経由、またはMicrosoftのウェブサイトから直接契約します。
    • ライセンスはユーザーアカウントに紐づけられ、一人のユーザーが複数デバイスで利用できます。
  • Office LTSC:
    • Microsoftのパートナー企業を通じて購入します。
    • ライセンスはPCに紐づけられることが多く、購入したPC台数分のライセンスが必要です。
  • Office Home & Business:
    • PCメーカーからのプリインストール版、または家電量販店やオンラインストアでパッケージ版として購入します。
    • ライセンスは購入した製品に付属し、タイでは1台のPCに、日本ではパッケージ版の場合、同一ユーザーが2台のPCにインストールして利用できます。プリインストール版は通常1台のPCに紐づけられます。

次回予告

次回は、これら新たなOfficeライセンスに移行する際に重要な、「認証方式の違いと管理体制の変更点」について詳しく解説します。