「SSDは速い!」と思っていても、大容量のファイルを連続でコピーしていると、途中で速度がガクッと落ちる経験はありませんか? これはSSDの構造と「キャッシュ」の仕組みが深く関わっています。
なぜSSDは途中で遅くなるのか?
主な原因は「SLCキャッシュ」と「NANDフラッシュメモリの種類」にあります。
1. SLCキャッシュの枯渇
ほとんどのSSD(特にTLCやQLC NANDを使用しているもの)は、書き込み速度を向上させるために「SLCキャッシュ」という技術を利用しています。
- SLCとは: 1つのメモリセルに1bitのデータを書き込む方式で、非常に高速な書き込みが可能です。
- TLC/QLCとは: 1つのメモリセルに3bit(TLC)または4bit(QLC)のデータを書き込む方式で、大容量化・低コスト化に向きますが、書き込み速度はSLCよりも遅くなります。
多くのSSDは、NANDフラッシュメモリの一部を一時的にSLCモードとして動作させ(これを「SLCキャッシュ」と呼びます)、ユーザーからの書き込み要求をまずこの高速なSLCキャッシュに受け入れます。これにより、瞬間的な書き込み速度が向上し、ユーザーはSSDが常に高速であるかのように感じます。
しかし、大容量のファイルを連続で書き込むと、このSLCキャッシュ領域が使い果たされてしまいます。キャッシュが枯渇すると、SSDは本来のTLCやQLCの速度で直接データを書き込む必要が出てくるため、速度が大幅に低下するのです。
2. NANDフラッシュメモリの種類
- TLC (Triple-Level Cell) SSD: SLCキャッシュが枯渇すると、本来のTLCの速度(QLCよりは速い)で書き込みが続きます。
- QLC (Quad-Level Cell) SSD: TLCよりもさらに多くの情報を1セルに保存するため、SLCキャッシュが枯渇した際の書き込み速度はTLCよりも遅くなる傾向があります。大容量かつ安価なモデルに多く見られます。
遅くなるSSDと遅くなりにくいSSDの違い
a. DRAMキャッシュの有無 (DRAMレスSSD vs. DRAM搭載SSD)
SSDのコントローラがNANDフラッシュメモリ上のデータ管理情報を一時的に保存するために使用する、高速な揮発性メモリがDRAMキャッシュです。
- DRAM搭載SSD: DRAMキャッシュを持つSSDは、NANDフラッシュメモリへのアクセスを効率化し、SLCキャッシュが枯渇した後でも比較的安定した速度を維持しやすいです。一般的に高性能モデルに搭載されています。
- DRAMレスSSD: コスト削減のためにDRAMキャッシュを搭載しないSSDです。DRAMの代わりにPCのメインメモリの一部を借りたり、NANDフラッシュメモリの一部をDRAMの代わりに使用したりしますが、データ管理の効率が落ちるため、大容量書き込み時やランダムアクセス性能でDRAM搭載モデルに劣ることがあります。
b. SLCキャッシュの容量と賢さ
SSDのメーカーやモデルによって、SLCキャッシュの容量やその管理アルゴリズムが異なります。
- SLCキャッシュ容量が大きい: より多くのデータを高速で一時保存できるため、キャッシュが枯渇しにくくなります。
- 賢いキャッシュ管理: キャッシュ領域を柔軟に確保したり、データがアイドル状態のときにキャッシュからTLC/QLC領域への移動を効率的に行ったりするSSDは、全体的な性能低下を感じさせにくいです。
c. コントローラーの性能
SSDのコントローラーは、データの読み書き、エラー訂正、ウェアレベリング(書き込み回数を均等にする処理)など、SSD全体の性能を司る重要なチップです。高性能なコントローラーは、SLCキャッシュが枯渇した後の処理能力も高く、速度低下を抑える傾向があります。
まとめ:あなたの用途に合わせた選び方
- 大容量ファイルの書き込みが多い、クリエイティブ作業をするなら:
- NVMe接続のTLC NAND SSDで、DRAMキャッシュ搭載モデル を選びましょう。SLCキャッシュが大きく、コントローラー性能が高いものがおすすめです。
- OSやゲームの起動、一般的な用途がメインなら:
- NVMe接続のTLCまたはQLC NAND SSD(DRAMレスでも可) でも十分高速さを体感できます。大容量ファイルの連続書き込みが頻繁でなければ、SLCキャッシュ枯渇による速度低下はあまり気にならないでしょう。
SSDのスペックシートやレビューを参考に、自身の用途と予算に合ったモデルを選ぶことが重要です。